2025/02/27 11:57

第二次ボーア戦争編



第二次ボーア戦争は、オレンジ自由国及びトランスヴァール共和国と大英帝国の間の戦争(1899年10月11日 - 1902年5月31日)の事である。

 この戦争をざっくりと説明するならば、オランダ系移民であるボーア人(アフリカーナ)とイギリス人の対立である。
オレンジ自由国及びトランスヴァール共和国はボーア人によって建国された国であったが、金が採掘できる鉱山やダイヤモンド鉱山が発見されて以来、イギリスの鉱山技師が大量にケープ植民地から流入したのである。しかし、待遇がアフリカーナよりも悪く、トランスヴァール共和国では投票権を与えられず、金産業に対しても重税を課したのである。イギリス人に対しての不平等な待遇は、ケープ植民地への軍事力の大幅な増強を正当化するための口実になったのだ。
この歴史的出来事に関係する人物を通してパイプを学ぼう、というのが今回のブログの最大の目的である。今回のブログでは4人の人物に焦点を当てようと思う。


①セシル・ローズ(1853年7月5日〜1902年3月26日)


セシル・ローズ(Cecil Rhodes)は、19世紀のイギリスの実業家、政治家、そして帝国主義者として知られる。1853年イングランド生まれ。彼は特にダイヤモンド産業で成功を収め、デビアス(De Beers)という会社を設立し、今日でも有名なダイヤモンド市場の巨頭を作り上げた。
彼は政治的影響力も強く、南アフリカのケープ植民地の首相を1890年から1896年まで務めた。
彼は1895年、トランスヴァール共和国を攻撃するためのジェームソン襲撃を支援した。それが、ボーア人とイギリス人の間の溝を更に深めることになったのだ。つまり、第二次ボーア戦争を助長したのである。
更に彼は現在のジンバブエとザンビアにあたる地域を「ローデシア」と名付け、イギリスによる植民地化を推進したのだった……
ん?ローデシア?!そう、ダイヤモンド型のボウルが特徴のローデシアンの名前の由来は、彼の名字なのである。日本のパイプメーカー、柘製作所はかつて「そろばん型」と呼んでいたが、ダイヤモンド型のボウルがダイヤモンド産業で成功したセシル・ローズを連想させたのだろう。


シャンクが丸いものをローデシアン、菱形のものをブルドッグと説明されることが多いが、メーカーや書物によっては説明が逆になっているので、真相は煙の中である。


②ポール・クリューガー(1825年10月10日〜1904年7月14日)


彼はトランスヴァール共和国(南アフリカ共和国とも呼ばれる)の大統領を1883年から1900年まで務めた。クリューガーはボーア人の象徴であり、彼らの独立と文化を守るために生涯を捧げた人物として知られる。彼は敬虔なプロテスタントで、聖書を人生の指針とし、その頑固で保守的な性格から「オーム・ポール」と親しみを込めて呼ばれてた……
ん?オーム・ポール?!そう、フルベントのパイプの中でもかなり曲がっているあのクラシックシェイプの名前の由来は、彼のニックネームである。オーム・ポールはアルファベット表記すると “Oom Paul”となる。これは、オランダ語及びアフリカーンス語で「ポールおじさん」という意味なのである。因みに、私が一番好きなクラシックシェイプである。


このパイプは、ポーカーの変形ともいうべきいかにもマストロデパヤらしいシェイプだが、ベントの具合がフルベントに近いという意味では、オーム・ポールと共通点があるだろう。


③コナン・ドイル(1859年5月22日〜1930年7月7日)


彼は、世界で最も有名な探偵シャーロック・ホームズの生みの親として有名であるが、本業は医者であった。1900年に志願して南アフリカへ向かい、彼は軍医としてではなく、民間の医師として現地の野戦病院で働いた。特にブルームフォンテーンでの勤務が知られている。そこでは腸チフスなどの感染症が蔓延する過酷な環境で患者の治療にあたった。この経験は彼に戦争の現実と医療の限界を深く印象づけたのである。
シャーロック・ホームズシリーズにおいて有名な小説のひとつに「バスカヴィル家の犬」がある。この小説は彼が戦争から戻った直後の作品であり、この物語の暗い雰囲気や孤立感は、戦争体験が間接的に反映された可能性があると指摘する研究者もいる様だ。




ところで、シャーロック・ホームズといえば、鹿撃ち帽に、メシャムのボウルと曲がりくねった瓢箪を組み合わせて作られたキャラバッシュパイプを想像する方も多いだろう。ところが、原作の小説の中には3種類のパイプしか登場しない。アンバーのマウスピースのプライヤーパイプ、黒くなったクレイパイプ、そしてチェリーパイプである。そもそも鹿撃ち帽は名の通り、紳士の嗜みとして鹿を撃つ時に被る帽子であり、大都会ロンドンで被るためのものではない。これはシャーロック・ホームズの物語を舞台で公演する際に、遠くの席からでもホームズ役の演技が分かりやすい様にという工夫だったらしい。


キャラバッシュパイプに使用される瓢箪は、現在の南アフリカ原産のもので第二次ボーア戦争後にイギリスへと伝わったといわれている。シャーロック・ホームズがモリアーティ教授との決闘の末、ライヘンバッハの滝へと落ちたのが1891年であることを考えると、彼がロンドンで活躍していた時代にキャラバッシュパイプは存在していなかったのである。


④J.R.R.トールキン(1892年1月3日〜1973年9月2日)


指輪物語やホビットの冒険の作者として有名なトールキンは、第二次ボーア戦争が起きる少し前1892年、オレンジ自由国で生まれた。言語学者でもあり、「エルフ語」など架空の言語を創り出した。彼はパイプスモーカーとしても有名であり、指輪物語では登場人物がそれぞれ愛用のパイプを持っているだけでなく、物語の本題に入る前の序章において「パイプ草について」の中で、具体的に細かく説明がなされている。映画、ロード・オブ・ザ・リングシリーズにおいて多くのパイプが登場するが、それらを提供していたのはドイツ老舗のパイプメーカー、ファウエンであったことは有名な話である。現在では様々な事情により「アウエンラント」というブランドのもとで、パイプ本体だけではなくパイプたばこもプロデュースしている。(ワタシのオススメは、イブニング・アウエンラント)