ピーターソン・スピゴット・リボーン・15

SOLD OUT

そう、それはある暑い夏の日のことだった。ニュートンは一体何故、林檎が地面へ落ちる様を見て、重力という存在に気づいてしまったのだろう。

ピーターソンの珍しいパイプ、吸い口が琥珀製のスピゴットが地面へ吸い込まれるが如く落下してゆく。

時というものは誠に興味深いもので、その瞬間はスロー再生しているかの様に流れた。手を伸ばそうとしたが、時既に遅し。マウスピースは粉々になってしまったのだ。それからはというものの、当店にとって歴史的トラウマとなってしまった。忘却というパンドラの箱にそっと仕舞い込んだのである。

時は流れ2024年ゴールデンウィークが過ぎた頃。倉庫を整理していたら運命かの様に現れたのが、生き残ったボウルと銀巻きの部分であった。明るいライト仕上げ、バーズアイの美しさ、ボウルの大きさとシャンクのバランス、高貴なスターリングシルバーのリング…本来であればパイプは愛煙家のもとへ嫁ぎ、良きパートナーとなることがあるべき運命だと思ったのだ。

このまま倉庫の奥で、陽の目を見ることなく忘れ去られ、お嫁入りは遠い夢物語になってしまう。そうなってしまってはこのパイプが可哀想。どうにかしてマウスピースを復元することが出来ないだろうか？甦ってくれ、いや生まれ変わってくれ。そこで、柘製作所へ助けを求めたのである。

このマウスピース復元プロジェクトは、想像を超える難解なものになってしまった様だ。粉々になってしまったので、マウスピースは殆ど残っていない。マウスピース側のスターリングシルバー内に残った琥珀を取り除き、その大きさに合わせてエボナイトでマウスピースを一から作り直さなければならない。でもワタシはどこか安心していた。何故ならば、柘製作所の職人の技術力は絶対的なものだからである。いざ完成品を目にした時、その安心感は確実なものになったのだ。

スマートな広がりを魅せるフィッシュテール。それを際立たせ、より一層高貴な印象を与えてくれる隠れたエッジの存在。琥珀のマウスピースだった頃と比べて見ると、エボナイトのマウスピースは少し長めに作られている。これはボウルの大きさとシャンクそしてマウスピースのバランスを綿密に計算した結果なのである。

それだけではない、パイプを正面から見てみよう(ボウルを左側、マウスピースを右側に置いた時のアングル)。このマウスピースは前述の通りフィッシュテールであり、上部と下部は面をつくる為に削り出した様に見える。それはまるで坂の様に見えるだろう。その削った角度に注目すると、上部の方が緩やかに見える。それに対して下部は比べると少し急坂だ。これはクラシックシェイプであるビリヤードが魅せるシャンクからマウスピースへと描かれる真っ直ぐな印象を与える為なのである。もしも角度が等しい場合、マウスピースが上へ少し反り返った様な印象になってしまうのである。

全体的な美しさ、細部に渡る職人ならではのこだわり。たばこを吸うための道具であり、木目や職人の技術力を愉しむための芸術品でもある。何はともあれ良かった。良く生まれ変わってくれた。ありがとう。

スペック
全長:約145mm
高さ:約47mm
火皿内径:約21mm
火皿深さ:約34mm
重さ:約35g

※当店で取り扱う商品は、道具として使用することを前提としております。微細な傷など状態を気になさるお客様は、必ず店頭で実物をご確認ください。よろしく御願い致します。

※ご購入前に必ず、特定商取引法に基づく表記のご確認をお願い致します。

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